ボサノバの季節
先日立ち読みした本によると、「音楽脳」というのがあるらしく、毎日音楽ばかりやっていると、やはり頭も音楽に向いた機能が発達してくるらしい。私自身、仕事と音楽では明らかに脳の違う部分を使っているのだと実感する。だからはっきり言って、仕事後一時間ぐらいは、きちんと音楽と向き合えない。頭がついていかないのだ(歳と言われたらそれまでだけど・・)
「オージェ(明日)」ガル・コスタ

ガル・コスタ2005年の録音。最新アルバムかと思っていたら実はそうではなく、2年前のアルバムだった。「トラーマ」というサンパウロのマイナー・レーベルに移籍後の第一弾がこの「オージェ(明日)」。超メジャー・レーベルBMGブラジルから移籍したというのだから驚きだ。当年60歳。普通なら定年退職。セカンドライフを悠々自適にと考える年齢で、音楽のモチベーションを高めるためにマイナー・レーベルに移籍するとは。まぁ人それぞれで色々な考え方はあるんだろうけど、60歳にして挑戦的な姿勢はミュージシャンの鑑である。というか、メジャー・レーベルって音楽以外の制約が凄いんだろう、きっと。
ガル・コスタといえば、押しも押されぬMPB界の女王。現在でも若々しくキュートな声質ながら、そこはやはり女王の貫禄が漂う。「ドミンゴ」でカエターノと共演していた頃を思うと「時は流れた」の感もあるが、個人的には最も好きなヴォーカリストの一人だ。ジョイスとはまた違った意味で訴えてくるものがある。
心機一転を図った「オージェ」では、特に奇をてらった演出などはまるでない。新しい世代のブラジルのミュージシャンの曲を丁寧に歌っている印象を受けた。最初の2曲がフォーク、カリブ海近辺の民族音楽的な曲で「おやっ」と思うが、前半は比較的ブラジル色が薄いように感じる。透き通るようなアコースティック音楽。休日の昼間などに聴くにはもってこいだ。表題曲「オージェ」は、カエターノの息子、モレーノ・ヴェローゾのオリジナル。ちなみに、ラストの曲もそうだし、カエターノ本人の曲も歌っている。さすが息子というか、カエターノの世界と共通する部分があるな。
表題曲以降の後半では、シコ・ブアルキの曲などもあり、MPBの雰囲気の濃い内容となっている。「チェシャ猫の微笑」のように、ずば抜けた一曲があるという訳ではないが、全体的に高水準の曲が並び、非常にバランスの良い出来となっている。繰り返し聴いても飽きのこないアルバムと言える。う〜む、こんなアルバムがリリースされる限り、ブラジルからはやはり目が離せない。まぁほんと言ったら他の民族音楽をもっと聴いてみたいところだが、財政事情もあり、ジャズ、ブラジルあたりが限界か。とりあえず「オージェ」はお薦めの一枚です
今最も新譜が聴きたいアーティスト

ここにきて疲労とストレスで例の頭痛に襲われている。今月は今のところまともに一日休めたのが一回しかなく、しかもその一日がTV収録だったため、かなり厳しい状況だ。音楽休めばいいようなものだが、こっちも意地である。気力を振り絞ってトランペットを吹く。何だかやけくそみたいだが、ジャズやってない自分ってイマイチ想像つかない。
それこそジャズを聴くようになってから、「誰それの新譜を待つ」なんてことはまったくと言っていいほどなくなった。数十年前の再発盤を待ったり、気が付いたら誰それの新譜が出てるから買ってみようか、みたいなノリ。その中で、殆ど唯一、新譜が気になるミュージシャンがいる。JOYCEだ。ジャズではなくMPBの人だけど・・
数年前クラブ・ブームで火がついた感のあるジョイス。その名を一躍有名にしたのが上のアルバム「Feminina」(「Agua e luz」と2in1になっている)だ。1980年録音ながら、今聴いても十二分に新鮮。27年前の音楽ってこんなに豊かだったんだと驚く。音楽で新しい世界を構築してやろうという純粋な思いが伝わってくるような気がする。これって最近のジャズが失いつつある部分だな、などと思ったりもする。音楽が思想とか人生そのものであり得た時代だ。この類の音楽は概して色褪せることがない。
しかしこの人のアルバムはどれも完成度が高いな。エリス・レジーナを追悼した比較的最近のアルバム「宇宙飛行士」も、普通だったら本家が凄いだけに企画倒れに終わりがちだが、ジョイスはさすが。エリスのアクを抜き去って見事なまでに自分の世界を創り上げている。ジャストな音程で歌いだすところは大貫妙子以上で、これがジョイスの持ち味の一つだ。それだけに、しばしば声が楽器のように響く。本人もそのあたりの効果を狙っている節もあり、よくスキャットも披露する。超アップテンポでギターと一糸たがわぬユニゾンで歌いきるスキャットは圧巻。極度に感情を込める訳でもなくある意味クールに、しかし情熱的に自らの世界を表現するジョイスから目が離せないでいる。
最近のブラジル物再発ブームは何でもありの嬉しい状況だが、見ると欲しくなるから、あまり見ないことにしている。ジョイスのファースト「JOYCE」もついにCD化された(かなり前だけど)。トニーニョ・オルタのファーストもCD化されたぐらいだから、昔のちょっと渋めのアルバムもどんどん出てきているんだろう。個人的にはマリア・クレウザのアルバムとかドリス・モンテイロ、パスコアルあたりの一挙再発があればと思う。もうあったのかも知れないけど。
まぁこらからの季節はうざいことは忘れて「Feminina」でも聴きながら涼しい部屋でメチャクチャうまいアイス珈琲か、極冷えしたエビス・ビールでも飲みながら、ひぐらしの鳴き声に耳を傾けつつうたた寝でもしたい。想像しただけで昇天だ(笑)
海とボサノバ

「5月の風」はナラ・レオンの歌ったボサノバの名曲。写真は今日、昼下がりの日本海。すっかり初夏の陽気で気持ちがなごむ。夏と冬のどっちが好きと訊かれたら、145%夏と答えるだろう。
で、夏の海辺とくれば、これはもう完全にボサノバの世界だ。ボサノバがよく似合う。個人的にはボサノバ以外のブラジル音楽全般、いわゆるMPBが大好きなんだけど、もしかしたらジャズよりはるかにマイナーな世界かも知れない。そのことに気付いたのはつい数年前のことで、カフェなどでは大抵ボサノバを流しているものだから、てっきりブラジル系音楽が人気なのかと思っていた。けど、案外にそうでもないのか。
ブラジルの大作曲家といえばトム・ジョビンがまっさきに思い浮かぶ。「ジョビンの曲の中でどれが一番好きか」・・・世の中で一番返答に困るような質問だが、私は「フェリシダージ」と答えるだろう。この曲はすごい。
ジョビンの曲の中では比較的メジャーな曲だと思う。この曲のどこがすごいのかと言うと、こんなコード進行、普通思い付かないだろう(笑)マイナー・キーから始まってメジャー・キーに移ろうくだりが何とも快感だが、曲全体が極めてドラマチックで、良くできた長編小説のような短編小説である。こんな説明では多分訳が分からないだろうから、とにかく一度聴いてみてほしい。音楽のエッセンスが凝縮したような曲だと思う。
こんな曲を聴きながら過ごす午後、それも初夏の午後はたまらなく心地よい。ブラジル・ミュージックについては今後も積極的に採り上げていきます。


